<第18回>作・藤本精一(元ワゴンマスターズ)

<スマイリさん> それにひきかえスマイリ小原さんのところはとても親切でした。ある時など僕等のショーの最中にひどくお酔いになったお客様がステージに上がって来てしまって、「アイ ソウ ザ ライト アイ ソウ ザ ライト」と、大声でリクエストして喚いていた。その時スマイリさんは、僕の方を向いて大きな声で「ジー」と聞いた。僕が「はいそうです」と言うと、やにわにバンドに向かって「ジー・・イン トゥー」と叫んで、カウントをとりだした。それに続いてピアノの人が前奏をやってくれた。僕は長いことバンドをやってきましたが、フルバンドがフメンなしでやったのは見た事がないので、びっくりしました。また、スマイリさんは面白い人で、僕がショーの仕事で彼の出てるクラブへ行ったとき、「おはよう御座います今日はよろしくお願いいたします」と僕が挨拶すると、「やあ、来たか先輩!ヴァイオリンの名人!」などと、大きな声で言うのです。彼と僕は確かに中学(舊制)は同じなのですが、本当は彼の方がずっと年上なのです。彼は僕に大変よくしてくれて、二人でいるとき、だれか人に逢うと、いつも「この人はいいんだよ」と僕のことをセンデンしてくれた。いつだったか、どっかのテレビ局の喫茶店で、彼と僕がコーヒーを呑んでいると、水原弘さんが同じテーブルに座った。例の如くスマイリさんは、「この人はいいんだよ」と彼にいったら、水原さんはブスッとした顔で「しってらーい」といった。

僕がスマイリさんと初めて逢ったのは、ウエスタン古事記の一番初めのページに載っている、僕がグリーン プラウ ボーイズを尋ねて、初めてゼブラ クラブへいったその日でした。そこには、毎週日曜日の午後はグリーン プラウ ボーイズが出ていて、そのあと七時から、スマイリさんのところがやってました。その頃のスマイリさんのバンドは五人位で、彼はアコーデオンを弾いていました。その他にメロとしては、トランペットがいて、コミカルなことをやってウケていた様でした。いつかショーの仕事で彼のバンドのでてるクラブ リーへ行ったら、従業員が、「スマイリさん アコーデオンも弾けるのよ」と教えてくれた。

<フルバンドのバンマス> ある時、あるスジのおかたが僕のところにやって来て、「ふじもと・・フメン買ってやるからよー・・メンバーあつめてフルバンドやんねーかぁ・・金だすからよー」と言ってきた。しかしその頃、僕はいろいろな音楽について詳しくなくて、自信がないので「やあ無理です」といって断った。これはあとで知ったことですが、かなり名の通ったバンドのバンマスでも、皆目フメンの読めない人が、いたらしいのです。フメンなど読めなくても、音楽的センスが抜群ならば、リーダーとして価値があるとは思いますが、そういう時は、メンバーの中に、音楽に詳しい人をスケットとして、入れておくと良いと思います。また、フルバンドのバンマスは、役者や歌手やダンサーと同様に、人に好かれる風格をもっていないと、ダメだと思います。それに良いマネージャーとか、プロダクションなどの、力もかりねばならないでしょう。<・・次回に続く>

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