<第17回>

文・藤本精一<元ワゴン・マスターズ>

(無断転載は固くお断りいたします。)

<キャバレーのエンタテェィナー> 話は違いますが、キャバレーの歌手は、レコードとか劇場などで歌う様に歌っては駄目なときがあります。ある時、私が面倒みてた女性シンガーで、『ケイコの夢は夜ひらく』をとても上手く歌うのがいた。僕は修業のためと思って、あるキャバレーでやってる友人のバンドに預けた。どんな具合かなーと、心配なので様子を見に行ったら、その夜は一回も僕の気に入っているユメヨルを歌わなかった。僕は不思議に思って「どうしてユメヨル歌はないの」と聞くと「あのー・・あれ歌うとホステスが泣くからダメだと言われたんです。」と言った。きっとマネージャーは、折角お客様方が楽しくしてらっしゃるのに、店内をしめっぽくしては、いけないと思ったのでしょう。

また僕はあるプロダクションでお手伝いをしてたときが御座いましたが、キャバレーのショーに持っていって、一番喜ばれたのは、着物を着て元気に日本調を歌う女の子でした。それは葬式の時にやる曲と結婚式の時にやる曲が、違うのと同じ様な事かもしれません。また、これはごく最近の話ですが、僕が気に入っている男性歌手がいて、或る高級クラブ(とよばれる所)に入れておいたのですが、声が大きいということと、目立ち過ぎるという事でクビになりました。(ライブなら大変結構なことなのですが)その様な所では、音楽が中心ではないので、よっぽど周りに気を付けてやらないといけないのです。

僕自身も、大野義夫さんと二人で組んでキャバレーのショーをやってましたが、ある時、お客さまに大変ウケていたので、サービスのつもりで15分位余計にやった。そしてステージから下りて楽屋に行ったら、マネージャーが待ち受けていて、大変お叱り蒙った事が御座いました。何故かというとショーのあいだは、お客様はあんまり呑んだり食べたりなさらないので、売り上げが落ちるのだそうです。それで何事でも、その場所と自分の立場などを、よく考えてやらなくてはいけないなあと思いました。

<フルバンド> 僕達は、管楽器が主になっている、9人以上のジャズバンドをフルバンドと言います。たまに7人のこともありますが、キャバレーやクラブのそれは9人から15人くらいです。大野さんと僕はよく15人用のフメンをもって、方々のキャバレーなどのショーをやってあるきました。それで、とても親切なバンドにも会いましたけれど、ひどく不親切なバンドにも会いました。一般的にいえば、いいバンドほど親切でした。或るバンドなど「音合わせお願いします」と言ったら、仏頂面して「うちはやらないんだよ・・・出来るから大丈夫だよ」と言った。だけれども本番のとき、ちっとも大丈夫ではなかった。

<次回「スマイリさん」に続く。>

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